続・木地師「山中の虎」と「近江小椋谷」
~美しい…。こちらは大振りな椀。うどんやラーメンのお丼ぶりぐらいの大きさ。~ 漆器づくりは分業制
ろくろ の名人がいる。ここでは「山中の虎」と呼ばせていただく。漆器の美しさや、使い勝手の良さを左右する重要なポイントは、私はフォルムだと思っている。
漆掻き職人さん、採取したその漆を器物に塗れる状態までもっていく職人さん、から始まり、途中途中の工程に必要な材料や道具を作ってゆく職人さん。箱づくり・箱書までいれると、輪島ではなんと市の8割の人達が、なにかしら塗物の仕事にかかわっている。どれも漆器づくりになくてはならない大事な 匠の技 である。
その中でも、私が特に興味をもったのが 木地師 きじし だ。
漆器というと、どうしても目に見える部分をうけもつ、上塗師や蒔絵師が注目を浴びるのは仕方がない。もちろん、上塗師も大変神経を使う匠の技であるが(これは次回)、それらが映えるのも、土台のフォルムの美しさや力強さがあってこそであると思う。
そして、木地師には他の職人にはない、山の匂い がする。実際に香るわけではない。観念的な匂いである(いや、いつも木の中にいらっしゃるから香るかも。アロマ効果あり?いいな~)。
かつて、「木地師」は放浪の民であった。良い木を求め、山から山へ移り歩いたそうだ。そんな話を聞いたからか、太古の山の神と共存しながら山の中に分け入る「木地師」の姿が脳裏に浮かぶ(妄想)。
現代は、木地師も定住し(あたりまえだけど)木工アーティスト化してきた。まあ、それはそれでいいのだけど、私はそんなにたくさんの木地師を存じ上げているわけではないが、「山中の虎」は、今でも、その 山の匂い を彷彿とさせる数少ない方だと思う。といっても虎殿は、(お弟子さん達にはどうか知らんが)とてもジェントルマンで、静かな方だ。
ただし、目の光は、只者ではない。
自然の事象に関することに風雅なアンテナが作動なさるようで、花鳥風月、古事などのお話が、とても楽しく勉強になる。虎殿は今、たいへん重き任務にたずさわってらして、本来なら私なんぞが、お近づきになれるような方ではないのである。 木地師の里「小椋谷」
~小椋谷の筒井神社前。「ろくろ木地発祥地」の碑。サル(太閤殿下ではない)が脇を通っていった。~
小椋谷は近江の奥の奥。鈴鹿山地の山懐の小さな里。昔、白洲正子さんの「かくれ里」を読んで以来一度行ってみたかったが土地勘が無さ過ぎてなかなか行けなかった。輪島塗にかかわれたことで似た趣味指向の同僚が出来、その3人で強行。
レンタカーを借り、琵琶湖から安土城あたりを通り、車で1時間程(たぶん・・ナビ付きレンタカーなのに、すっごく迷って山や谷をぐるぐるしちまったので)。
木地師の元祖は、惟喬親王といわれている。その惟喬親王が、あんなことやこんなことがあって都を後にしこの地へおいでになり、土地の人に‘木ろくろ’の技を伝えたのだ、といわれている。およそ千年も前のことだ。
筒井神社という神社に、「日本国中木地屋之御氏神」という碑がある。「日本の国中の木地師の氏神様」という意味で、本当に日本中の木地師はここはお参りに行くそうだ。資料室もあって、小椋さんにお願いして見せていただいた。当時の‘木ろくろ’があった。 小椋谷あたりでの昼食
そこからまたレンタカーで、鈴鹿の麓をぐるぐるぐるぐる迷い、やっと、昼食場所にたどり着いた。予約時間を大幅に過ぎてしもうた。
「日登美山荘」という、和モダンな古民家である。すこぶる美味しく、しかもちょっと洒落た山里料理を、囲炉裏を囲んでいただいたのだ。青いボトルが不思議な‘凛’というワインも飲んだ。近くの HITOMI ワイナリーのものだそう。 帰りの寄り道
小椋谷の近くに(迷わなければ)、石塔寺という聖徳太子創建といわれている天台宗のお寺がある。白洲さんにカブレていたため、帰路立ち寄った。
古くは大寺だったが魔王信長の焼討ちにあったためほとんどの堂塔を失ったそうだが、今でも狭い寺内には石塔がぎっしり立ち並び、不思議~なお寺の光景。その中にひときわそびえる石の三重塔がある。すっごい存在感。白洲さんや司馬さんが絶賛してらした先入観があり過ぎて、自分の感想が分からない・・・。情けないのう。
ほな。
コメント欄をもうけさせていただきました。公開はいたしませぬので、ご感想なりいただければ嬉しいです。
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