根来寺と根来塗(ねごろぬり)
マリコ・ポーロ
前回の「根来寺」続きなり。
~昇天堂修法檀~
本坊の方へまわり、司馬遼太郎さんが「街道をゆく」で根来塗の赤のことを、
「・・・主張や執着というどぎつさを去ってしまったもので、こういう色はまれに天然のなかに見る。たとえば残照の雲間にふとあらわれてつぎの瞬間には消えるかもしれない赤である。」
と、すこぶる付きに情緒的な素晴らしい文章で表現された、聖天堂の修法壇(しゅほうだん・すほうだん)を見せていただいた。
嗚呼、しかし、哀れマリコ・ポーロは、まれに天然の中に見る赤という色もよく分からず、残照の雲間に瞬間あらわれるかもしれないその赤がどんな赤かも知るべくもなく、その上、輪島塗もかじり始めた(販売と紹介発信)ばかりで、その修法壇は、塗り直しが必要な乾燥しきったカスカスの赤にしか見えなかった・・・。
‘物’というのは、それを見る人間が、深いか(司馬さんや須田画伯)浅いか(わらわ)で、こんなに価値が違うものなのね。そもそも司馬さんと比べるほうに無理がある。今だって分かっちゃいないが、でも、もう一度見てみたいなあ。
今、中世の根来でつくられたと断定できるのは、実は一点だけとのこと!どれかしら?あの修法壇かし?中世、根来で朱塗の漆器製造が発達したということは、空海の水銀鉱が、覚鑁に引き継がれたということでもあるのかな。 中世の根来塗 (ねごろぬり)
天正13年、秀吉により根来が攻められた時、根来塗りに従事していた者達が各地に散ったことにより、この「中世の根来塗」の技法が日本中に広まったといわれている。
漆塗りの到達点と言われる根来塗。輪島塗屋のご当主はじめ漆塗りにたずさわる方達がおっしゃるには、その到達点には、出来上がった時に達するのではないそうだ。漆塗は全てそうだが、出来上がった時は「産まれた時」。その後、人の手によって日々使われ、使われ、使い込まれ、何十年後何百年後かにやっと「完成」の状態になる・・・らしい。
根来の場合、それは…
根来塗りは朱塗りである。最近は黒根来(怪しい忍者集団みたい)というのもあるらしいが、基本は朱塗りだ。しかし、朱を塗り重ねたわけではない。中塗りに黒漆を塗り、最後の上塗りに初めて朱を使う。だから、よく見ると、塗りがおさまりにくい椀やお皿の縁は、かすかに黒が見えている。呂色はしない。つまり、ツヤツヤにしないのだ。上塗したまま。
それを、長い年月、さわって、洗って、拭いて…を繰り返すうちに、ところどころ下の黒が現れてくる。ここらあたりから、根来としての味が出てくるのだ。
美術品の域に達するには、日常使いが必要なのである。大事にしまっておいたら完成はしない。
それが根来、とな。 現代の根来塗
でも、これじゃあ自分の一生では完成品は見られない。今、自分が見られるのは、先代、先々代が買って使い込んだ物。だから自分も次代、次々代のために新しい物を誕生させ使い込んでいかなければならない。これは、自家のためだけのことではなくて、日本の漆文化の存続のためとも言えると思う。
とはいえ、生きてるうちに、好きな器が‘根来った’とこを見たいのは人情。バイトを雇って一年365日磨かせてるわけにもいかぬ。
そこで、そういうお客様のご要望に答えるために、デザインを考えながら、わざと、ところどころ砥いで下の黒を出すことをする。これはもう「根来」ではなく「根来風」である。
元を言えば、「根来塗」とは、根来で作られた物をいう。どんなに、この中世の手法に忠実につくり、100年後どんなに素晴らしい味がでたとしても、例えばそれが輪島でつくられた物なら「根来風輪島塗」、京都でつくられたものなら「根来風京漆器」としか言えないなのだ。
それでも誰かが継続してつくっていかねば、天正13年の根来攻めでもせっかく残った根来塗の技法は、21世紀遂には滅びてしまう。
と、分かったようなことを言っとるマリコ・ポーロ。美術本で眺める古根来は美しい〜と思うが、博物館や日本橋の美術骨董まつりで見る古根来は、う〜ん…古い
が第一の感想。まだまだ全然分かっちゃない。
でもね、ここで疑問。
ご先祖さまから譲り受けた漆器をとっても大切にしてて、これからも孫子(まごこ)の代まで使い続けたいと願い、美しく「塗り直し」なんかしてしまったら・・・永久に‘根来らない’んじゃないの??なんて思ってしまうんだが、いかに?
漆器や漆塗に興味をもってくださった方は、カテゴリー「漆・金箔・伝統工芸など」を読んでいただければ恐悦至極なり。
http://maricopolo.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-0474.html
このあたりじゃ。
ほな。
コメント欄をもうけさせていただきました。公開はいたしませぬので、ご感想なりいただければ嬉しいです。画像は全てマリコ・ポーロが撮影したものです。画像と記事の持ち出しは平にご容赦願います。
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